製薬会社などが募集している「治験モニター」には一般的なアルバイトと違って「休薬期間」と呼ばれる「休み期間」があります。
治験モニターを行うためには満たしていなければいけない応募条件があるのですが、休薬期間はその条件の1つとなります。
そこでここでは治験モニターの休薬期間について紹介していきたいと思います。
休薬期間とはどういったものか
「休薬期間」というものがどういったものなのかについて順に紹介していきます。
治験モニターに応募する条件とは
治験モニターに応募する際には決められた応募条件を満たしている必要があります。
それらの条件は
・規定の範囲内の年齢、性別、国籍
・在住している地域(基本的には実施される施設の近くであること)
・個人の健康状態が良好であること
・本人確認ができること
・生活保護を受けていないこと
といったものがあるのですが、その中に「適切な休薬期間が過ぎていること」という条件があります。
治験に参加して体内に以前の薬が残っている状態で次の治験を受けると健康被害が出る可能性が高くなってしまいます。
そのため、一度治験に参加すると一定期間空けないと次の治験を受けることができないようになっているのです。
この治験に関しては「臨床試験受託事業協会」がまとめて管理していますので、休薬期間をごまかしたりすることはできません。
応募する際には規定されている休薬期間を過ぎていることを確認して応募しましょう。
休薬期間とはどれくらいの期間なのか
直前に参加した治験の内容や、次に受けようとしている治験の内容によっては休薬期間が違ってくることがあります。
その内容によっては1~3ヶ月程度で可能となる場合もあるのですが、平均的には4ヶ月程度となることが多くなっています。
治験薬を使用するタイプの治験に参加した場合はたいていが3~4ヶ月が休薬期間となります。
血中薬物濃度が半減するまでに時間を要するような治験薬を使用した治験に参加した場合には半年の休薬期間が設けられる場合があります。
また、簡単な食品モニターや軽微な機器モニターなどに参加した場合については1ヶ月程度の休薬期間となることが多くなっています。
こうした休薬期間がわかりにくい場合は事前に確認しておくと良いでしょう。
治験と休薬期間に関係したものについて
治験を行う際にはいくつか知っておくべき事柄があります。
その中には休薬期間に関係したものが多くなっていますので注意が必要です。
臨床試験受託事業協会とは
医薬品や医療機器の開発、使用については生命や健康に影響する部分が大きいため、その安全性の管理については重要課題となっています。
こうした新薬の開発などを行うためには臨床試験、治験を行っていくことは必要不可欠なものとなっています。
そこで「臨床試験に参加する被験者の安全性確保」および「臨床薬理試験の質の向上」を目的として「臨床試験受託事業協議会」が1989年に創設されました。
こちらの主な活動内容は以下のようなものです。
・臨床薬理試験および臨床研究に関する研究
・委員会活動、講演会、各種研修・講習会などの開催
・定期実務者講習会/ボランティア管理担当実務者講習会の主催
・その他シンポジウム・講習会の主催
・情報収集および研究成果に基づく資料・成果物の発行
・「重篤な有害事象の調査」と「被験者の安全性確保の取り組み」の海外雑誌への投稿を含めた論文化
・関係行政機関、製薬業界および関連学会等への対応
・会員への情報提供
このうち「会員への情報提供」の中に治験情報の公開、募集などが含まれています。
「臨床試験受託事業協会」では「被験者照合システム」が構築されています。
そのため臨床試験受託事業協会に加盟している病院などでは被験者がどういった治験に参加しているかという履歴を確認できますので、病院同士で確認しあったり、何度も確認しなければならないという手間はかかりません。
こちらのシステムは臨床試験受託事業協会の照合センターによって運営管理されています。
主に治験者の健康維持や安全管理を目的としているシステムとなっています。
こちらが管理している休薬期間には採血に関する必要性もあります。
治験を行う際にはその人の血液中の薬の成分の推移を調べるために採血が頻繁に行われます。
量にして「300〜400mL程度」の採血量となることもあります。
そのため、この状態を正常な状態に戻す期間としても休薬期間が必要となるのです。
治験を行う際には常にもっとも健康な状態であることが推奨されているのです。
治験が行われる際には「プラセボ」が使用されることもある
治験によっては「プラセボ」が使用されることがあります。
プラセボとは治験で使用される新薬と形や色が同じものでありながら、中には有効成分が含まれていない薬のことです。
治験で使用される薬とプラセボとを混在させて使用することで、治験で使用されている薬の効果とプラセボを使用した場合の心理的効果、精神的効果を比較して治験の薬が有効的なものかどうかを実証していくというものです。
人間の体は不思議なもので、その薬に有効成分がまったく入っていなくても「この薬は効く」と信じて飲むことで本当に効果が出る場合があります。
「病は気から」という言葉に近いかもしれませんが、人は精神的なものでも効果を感じる場合があるのです。
そうしたプラセボと本物の治験の薬を並行して使用することで薬の有効性を見ていくのです。
あらゆる治験において必ずプラセボが使用されるということはありませんが、その治験で行われる説明で「プラセボ」という単語が出てきた場合はプラセボが使用されるという可能性が高くなります。
ただ、参加した治験者の誰が「本物の治験薬」を飲むのか「プラセボ」を飲むのかということは公表されません。
そのため、自分がどちらを飲んでいるのかはわからないということになります。
これは自分が飲んでいるのがどちらかということがわかることによって出る体の変化を防ぐためでもあります。
休薬期間の必要性とは
治験モニターはこれから世に出ていく新薬の有効性、有用性、副作用といったことを確認していくために存在しています。
そのため治験を行う時点での新薬は、まだ有効性や安全性が確立されていない未承認の薬ということになります。
薬を使用することに対する副作用や危険性など、体にどのような影響を与えるのかはわからない部分が多いのです。
それだけに他の新薬が体内に残っている状態で違う新薬を投与すると思いがけない影響を及ぼす必要があるのです。
ここではそういったことを防ぐための休業期間の必要性について紹介していきます。
体への影響、健康上の安全のため
新薬に限らず、薬を服用、投与する際には飲み合わせには注意しなければいけません。
現在すでに利用されている薬であっても複数の種類を同時に投与すると思わぬ健康被害が出る場合があります。
治験で投与するのはさらに安全性が確認されていない新薬ですので、体内に残っている新薬とさらに追加で投与された薬との組み合わせが良くなかった場合には大きな健康被害を生み出す可能性があります。
もちろん治験モニターが行われる病院施設では、治験で悪影響が起こった時を想定した上で医師などの医療スタッフが準備をしています。
しかしそれでも重大な健康被害が出る可能性がある行為はできる限り排除していかなければいけないため、休薬期間が重要となるのです。
正確な情報、データをとることができなくなるため
治験で新薬を投与する前には、何度も基礎研究が行われた上で動物実験が行われています。
そのため、ある程度どのような副作用が出るかといったことが予測されていることとなります。
ただ、治験を行う際に前回の治験薬などが体内に残っていると健康被害が出る可能性が高くなるだけでなく、予測された通りの正しい結果が出ないということがあります。
新薬の有効性や副作用に関する情報、データが正確にとれなくなる可能性があるのです。
治験を行う際には厚生労働省が定めている規則、ルールに従って行われます。
ここで得られた治験結果は新薬の開発に重要な意味を持つこととなります。
その治験において正確なデータがとれないということは新薬の開発にとって大きな影響を与えてしまうこととなります。
休薬期間がないまま治験を行うことはこのように正確なデータがとれないかもしれないという危険性があるのです。
副作用が出た際に原因を特定できないため
治験を行う際には何らかの副作用が出る場合があります。
もちろんそれを調べるための治験でもあるのですが、前回の治験で投与された薬が体内に残っている状況でその副作用が出ると、それが「今回投与した薬による副作用なのか」「前回投与した薬が関係している副作用なのか」ということが判別できなくなります。
治験を行った際に出た副作用の原因、理由を特定していくためには体内に薬が残っている状態ではできないのです。
それぞれの条件がはっきりしないことでは副作用の原因が特定できないため、体内から前回の薬が完全に抜け切るための休薬期間が必要となるのです。
もし休薬期間中に治験を行うとどうなるのか
このように休薬期間中に治験を行うことは絶対に避けるべき事項となります。
ではそういった休薬期間中に治験を行ってしまうとどうなるのでしょうか。
ここでは休薬期間中に治験を行うとどうなるのかということについて述べていきます。
治験は途中で中断されることとなる
せっかく治験を行ったとしてもそれが休薬期間中であったことが判明すると、
・健康上のリスクがある
・正確なデータがとれない
・副作用の原因も特定できない
といった理由によって治験は途中で中断されることとなります。
それは治験の途中であっても予告なく強制的に中断されることとなります。
ペナルティが課せられる場合もある
治験が途中で強制的に中断された場合は、本来もらえるはずであった協力費は満額もらえないということがほとんどです。
かなり減額されて一部だけが支給されるか、まったく支払われないという場合もあります。
特に休薬期間中を偽っていた場合、治験を受けた薬の内容を偽っていた場合などは悪質なものとして協力費が打ち切られることが多くなっています。
それ以降は治験に参加することができなくなる
治験において休薬期間中に参加するという行為を行った場合は、その人に対してはこれ以降の治験者募集についての情報提供は打ち切られることとなります。
会員登録している情報についても解除、削除されることとなり、これ以降は治験に参加することができなくなります。
定期的に治験に参加していた人にとっては大きなペナルティとなるかもしれません。
病院や製薬会社に大きな影響がでる場合もある
治験者が休薬期間中に治験に参加したことによって予定していたデータがとれない、予測から大きく離れた結果データが出たという場合には、その新薬の開発や治験の実施計画をすべて見直ししなければならないということもあります。
こうなると実施施設や製薬会社からすれば手間がかかる、新薬の開発が遅れるという大きな被害を受けることとなります。
もし、その新薬の提供販売を待ち望んでいる患者が居た場合にはその人たちの治療に関しても大きな影響を与えることとなります。
悪質な場合は損害賠償請求をされる場合もある
治験者が休薬期間中に治験を受けたことによって治験の実施計画に大きな被害がでた場合、実施施設や製薬会社は経済的損失を受けることがあります。
治験者の行為が悪質だと認められた場合には、こうして発生した経済的損失について治験者に損害賠償請求がされるという可能性もあります。
まとめ
治験を一度行うと「休薬期間」が必要となります。
次の治験モニターに参加する際には体内に以前の治験の薬が残っていない状態で受けることが必要となっているのです。
もし休薬期間中に治験を行ってしまうと治験者の健康上のリスクが高くなってしまうだけでなく、副作用の原因理由の特定が遅れる、実施施設や製薬会社がデータを正しくとれないことによって経済的損失が出る、新薬の開発が遅れるといったさまざまな可能性が発生します。
どういった治験を行ったか、これからどういった治験を行うのかによって休薬期間は違ってくる場合があります。
たいては4ヶ月程度ですが、内容によっては半年ということもあります。
自身の休薬期間が不明な場合は必ず事前に確認して次の治験に参加できる状態かどうかを調べた上で応募するようにしましょう。